2011年度ゲノム支援公開シンポジウム「次世代ゲノム科学の最前線」

2011年度ゲノム支援公開シンポジウム「次世代ゲノム科学の最前線」

 2012年2月15日(水)に、2011年度のゲノム支援公開シンポジウム「次世代ゲノム科学の最前線」を、品川のコクヨホールで開催しました。
 冒頭、文部科学省研究振興局で学術調査官をお務めの豊嶋崇徳先生(九州大学病院・遺伝子細胞療法部)より、ご挨拶を頂戴しました。

 最初に、国立遺伝学研究所の小原雄冶先生から、ゲノム科学の歴史を含めた基礎知識の解説と、最近のゲノム解析機器の能力向上とそれが生物学研究にもたらした革命的な変化に関してのお話があり、そのような状況の中でゲノム支援の活動が目指すところが紹介されました。

 ゲノム医科学の分野では、東京大学病院の辻省次先生から、高速遺伝子解析装置の実用化により一人ひとりのゲノム解読が可能となり、これまで困難であった疾患遺伝子の解明や低頻度で疾患に対する影響度の高いゲノム多様性の発見が進み、発症機構・病態機序の解明、分子標的治療ターゲットの発見が進んでいることが、先生のご専門である神経内科領域の実例を挙げて紹介されました。また、昨年東大病院にゲノム医学センターが開設され、ゲノム科学の進展を日々の診療活動に取り入れる取り組みが始まっていることも紹介されました。

 ゲノム微生物学の分野では、北海道大学低温科学研究所の福井学先生と小島久弥先生より、淡水環境に生息する硫黄酸化細菌Thioplocaを中心とした複合体の物質循環での役割を、メタゲノム解析*の手法を用いて解析した結果が紹介されました。環境中には多様な機能を有する微生物が生息していますが、大部分の微生物は実験室での純粋培養ができません。そのために、純粋培養法を基本とした従来の研究法ではごく一部の微生物しか研究できていませんでした。メタゲノム解析により、ゲノム微生物学の世界が実験室内から環境へと拡大していることが紹介されました。
*;純粋培養を経ることなく、環境中の全微生物が持つ遺伝子を抽出して網羅的に遺伝子解読を行い、環境中の微生物全体の遺伝子構成を調べる手法。遺伝子解析速度の大幅な向上により可能となりました。

 ゲノム生物学の分野からは、東京工業大学大学院生命理工学研究科の岡田典弘先生より、生きた化石と言われているシーラカンスのゲノム解読に関する講演がありました。最初に、シーラカンス発見の歴史を含めて生物進化研究上のシーラカンスの重要性について、シーラカンスのCT写真や解剖写真なども用いて、わかり易い説明がありました。ゲノム解読の結果、ゲノムサイズが約27億塩基対と魚類中で最大*で哺乳類と同等であること、解析の進んだ遺伝子群の特徴としては、魚類型と四足動物型が混在しているなど、魚類から陸上四足動物への進化の過程の解明にシーラカンスのゲノム情報解析が大きく寄与することが示されました。
*;魚類のゲノムサイズは、マグロ、メダカで約8億塩基対、フグで約4億塩基対です。

 最後に、奈良先端大学院大学の小笠原直毅先生より閉会の挨拶があり、2011年度のゲノム支援公開シンポジウムを終了しました。