ゲノムひろば2002 in 京都

主催:文部科学省科学研究費特定領域研究ゲノム4領域(旧特定領域)

後援:京都市、京都府教育委員会、京都市教育委員会

参加者の声

「ゲノムひろば」に参加して

ゲノムって何だろう。この問いに、小学生の時ならどう答えていたのでしょうか。
私が小学生の時、小学生にとってDNAとかゲノムとかいった言葉は身近になく、「ゲノム」に触れることのできるイベントもなかったのではないかと思います。それから十年余り、現在では、今回の「ゲノムひろば」にたくさん小学生が来場されているのを見るにつけ、小さいうちからゲノムは身近なものになっているのだなあと感じました。展示も、パソコン上でDNAの立体構造を動かせて、視覚的に捉えやすくなっていたりと、親しみやすいものが多かったと思います。子ども達が大きくなっていき、学問や生物の体への興味を持つ上で何らかの影響をするだろうなあという気がしました。
世代を越えて身近となった「ゲノム」。他にも学問の様々な専門用語が一般的になってきています。そして特に社会人には、学問から生まれた新技術に対し、それを認識し、かつそれを利用する上での意見を持つことまでが求められています。脳死判定とそれに伴う臓器移植の運用には意思表示のためのカードが導入されていますし、遺伝子治療やクローン動物、ES細胞の利用も現実のものとなってきています。そして今後更に研究の進歩、それに伴う人間生活への応用が見られることと思います。このような時代に、一般市民がそういった学問、研究分野に触れ、身近に感じることができる今回のようなイベントは大変意義があると思います。研究者と気軽に直接接することでができるので、普段疑問に思っていたことなど質問できますし、専門知識の支援を受ける場となることができます。
また、そういった知識を得る場という面もありますが、今回、ゲノムというレベルの物事が自分の中で起こっていることをおぼろげに感じることができて楽しかったです。社会人は日常の忙しさに追われ、ゲノムやDNAという言葉を見、聞くことこそすれ、そのまま頭を通り過ぎていくことがほとんどと思います。しかし、ふと自分の体でもDNAの複製が行なわれているんだと想像したり、体が細胞一つ一つからなっているんだと認識することで、自分がはるかな時の流れの中にいることに気付き、気分転換にもなるのではないでしょうか。「今すぐ役に立たないことを、それにもかかわらず追求できるのは科学者だけだ」というような言葉に触れたことがあります (日々、研究に勤しんでいる方々には一見、失礼な言葉かも知れません)。日常を生きる一般人から見たらすぐには役に立たないことに信念を持って研究し続け、ついに大発見をしてしまう・・。それが研究者の醍醐味なのでしょう。粋であり、ロマンをも感じます。私たち一般人は、研究の成果を自ら見に、足を運ぶことで、そのロマンを少し味わうことができます。今年2003年もイベント開催予定ということで、研究者の方々と市民の方々の交流が更に広がることと思います。
私は大学で細胞遺伝学を専攻しておりましたが、今春卒業し、現在は生物学とは関係の薄い職業についています。専攻に関係はあったものの、ほとんど専門知識のない私がイベントに参加し、楽しめた理由は、身近にゲノムに興味を持つ方々がいらしたからでした。近くにそういう方がいらっしゃると、多少分からないことでも身近に感じることができ、刺激になりました。今回イベントに参加された方、またされなかった方も次回は周りの人々に声をかけて、会場を訪れ、最先端の研究に触れるとともに、一緒に生命の不思議に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
2003年5月
澁澤 知加 (会社員)

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貴重な研修の場としての「ゲノムひろば」

私のゲノムひろば参加のきっかけは、私が担当している神奈川県生物教育研究会のホームページの管理人宛てに、「ゲノムひろば」の広報のメールが届いたことからでした。まだ公開を始めて間もない頃でしたが、研究会活動の広報の意味と,研修情報やシンポジウム情報などの有用情報が手軽に得られるサイトとして充実してゆくことを目指していましたので、そのような願いどおり、「どうぞ研究者たちに会いに来て、疑問や質問を様々に投げかけて下さい」と私たちにとって有用な情報が飛び込んできたわけです。私は、よろこんで研究会内のメーリングリストに情報を流し、研究会のホームページにも掲載させていただきました。また、個人的にもゲノムには大きな関心があったので、すぐに参加申し込みをしました。
私が参加した東京会場は、世の中の関心の強さを反映し大盛況でした。私はまず「ゲノムセミナー」に参加し、その後の閉館までの時間でポスターセッション「ゲノム研究勢ぞろい」の展示を見て回りましたが、多数のポスター展示は予想以上に充実していて、すべてをじっくり見てまわることができず、もっと早くから来て「ゲノムセミナー」の前にも見てまわればよかったと後悔しました。特に、当日配布されたパンフレットを後日じっくり目を通した時、もったいないことをしたと思いました。
まず、「ゲノムセミナー」は、著名な4名の先生方の講演でした。松井孝典先生は、アストロバイオロジーがご専門。地球の生物進化の内容や地球外生物の存在の可能性など、ゲノムとの関連も巧みに織り交ぜてのお話でした。松原謙一先生は、ゲノム研究の生みの親とも言われる先生で、ヒトゲノム計画の立ち上げからの流れ、HUGO (ヒトゲノム国際機構) 発足やセレラ社との競争、ゲノム研究の成果のポイントなどをお話し下さいました。笹月健彦先生は、色々な病気の遺伝因子と環境因子の関与する度合いについて示され、多くの病気は遺伝要因と環境要因が複雑に絡み合う多因子疾患であること、関与する遺伝因子が明らかになっている免疫疾患の例、免疫システムの多様性が遺伝子の多型性の上にさらに遺伝子の再構築に基づいていること、HLAの多型性は108、T細胞抗原レセプターや抗体では1015の多様性を生み出していることを話され、高等生物の高度な生命システムについて再認識することができました。高木利久先生は、無数の相互作用が複雑に関係しあっている生命現象を解明するには高度な情報技術が必要であり、新しい学問「バイオインフォマティックス」が登場していること、これからのポストゲノムシークエンス時代の生命科学の研究のあり方などをわかりやすくお話し下さいました。4名の先生方のお話はどれも簡潔明瞭で、これからの生命科学の方向性や生命科学に期待される面白さが伝わってきました。 展示の方も、高校の生物の教員である私には魅力のある内容が多かったでした。せっかくの機会なので、あまり知らない分野や質問したいことに関連のある展示を重点に見て回ることにしました。書物や科学雑誌、新聞の科学欄などで新しい知識は得ることはできても、疑問に思うことを質問する機会はほとんどないからです。的確に質問に答えていただけた場合と、あまり突っ込みすぎて展示内容の専門性からややはずれてしまい「こんな質問は酷だったかな?」という場面もありましたが、大学院生さんたちはどなたも一生懸命答えて下さいました。
今回、展示の方で得られた大きな収穫のひとつは、まだ見たことのなかった生物の実物を見ることができたことです。印象的だったのは、古くから研究材料として有名で教科書にも必ず出てくる「タマホコリカビ」と、最近モデル生物として有名な「センチュウ」のふたつです。このふたつの生物は、映像では見たことはありましたが、実物を見たことがありませんでしたので、「タマホコリカビ」のコーナーで「集合体や移動体が見たい!!」とお願いしたら、担当の大学院生さんは複数のシャーレからそれらを探し出して見せて下さいました。
高校生物の授業の内容は多方面の分野にわたり、高校の教員は浅く広く知識を持つことが要求されています。細胞分化の項目で「タマホコリカビ」の生活環を授業で説明する場合など、イメージを浮かべ実感をこめて話せるのと、まるで知らないで話すのではかなり話し方が変わってしまいます。生徒がクラブ活動や自由研究などに取り組む時など、「**の実験をやってみたい」と申し出があった場合、できるだけ対応できることが好ましいので、基本的な教材生物の扱い方を知っていることは大切なことです。私の場合、教員になってからこれまで、研修会や研究会の機会でいろいろな生物に出会って経験を重ねてきましたが、それでもまだまだ不十分です。私は理学部出身なのですが、教員養成系であってもおそらく実験実習の経験は必ずしも十分とはいえないのではないかと思います。中等教育の現場ではたくさんの実験や観察を実施することが理想的ですが、実際には教材生物の維持は大変な労力と努力を伴いますし、教材生物の提供会社から手軽に入手することも可能ですが、やはり割高なので教材生物の入手や維持は悩みの種です。未経験の生物を扱う場合はなおさらで、私もかつてもらい受けた変形菌の培養を試みようとしたことがありましたが、要領が分からず断念したことがありました。
「ゲノムひろば」のこのような機会でじっくり話が聞けて、その後の生物材料の提供や飼育・培養についてのアドバイスをいただけるというような関係ができるならば、私たち教員にとってこの上ない貴重な研修の場となります。一般的な講演会やシンポジウムなどで、著名な研究者の講演を聞く機会はしばしばありますが、講演者1名に聴衆多数では、質問も遠慮がちになってしまうのに対して、今回のイベントは1対1で納得するまでじっくりと質問ができるという点で、本当に貴重な場だったと思いました。
2003年度のゲノムひろばを楽しみにしています。今度は、事前にじっくり「ゲノムひろば」のホームページで展示内容の予習をし、質問を沢山用意していこうと思っています。そして、個人的な欲を言えば、インターネット上で公開されているゲノム情報のうち、私たちのような一般人でも利用できる内容を知る企画または展示があることを期待しています。というのは、2002年度のパンフレットにURLが記載され紹介されているサイトがいくつかありましたが、研究者向けに作られているサイト内の情報には利用方法がわからないものが多かったからです。
私はかつて「バイオインフォマティックス協会」の一般講習会に参加して、フリーソフトの「RasMol」の操作方法やタンパク質の座標データの入手方法を知ることができました。インターネット上にこんなに有用なデータが存在し、しかも無料で利用できることに大変驚き感動しました。「RasMol」というのは、タンパク質の立体構造をいろいろなモデル形式で表示させたり、ドラッグにより分子モデルを回転させるなどの操作ができる3Dソフトで、タンパク質の立体構造の学習に役立つものだったので授業で利用しています。
(拙者のサイトhttp://homepage3.nifty.com/keikoszk/3d/)
ですから、なにか高校の授業で役立ちそうなものがあれば知りたいので、操作の実演や、操作をさせてもらえたり、簡単なマニュアルのようなものがお土産にもらえるといったことがあると嬉しいです。2003年度のゲノムひろばに出展する研究者のみなさまには、このような要求もあるということを視野に置き、出展の内容を練っていただければ幸いです。
2003年5月
鈴木恵子 (法政大学女子高等学校教諭)

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