2013年度ゲノム支援公開シンポジウム「次世代ゲノム科学の最前線」

 2014年1月21日(火)に、2013年度「ゲノム支援」公開シンポジウム「次世代ゲノム科学の最前線」を、東京国際フォーラムにて開催しました。

 冒頭、「ゲノム支援」活動の学術調査官をおつとめの堀哲也先生(国立遺伝学研究所)から、ご挨拶を頂戴しました。

 最初の講演では、「ゲノム支援」班員でもある菅野純夫先生(東京大学新領域創成科学研究科)から、「ゲノム解析の現状と展望:ゲノム支援活動から見える新たなチャレンジ」と題して、「ゲノム支援」活動の概要の紹介と、最新の技術として1細胞レベルでの遺伝子発現(トランスクリプトーム)解析の紹介がありました。1細胞レベルの遺伝子発現解析によりこれまでは出来なかった視点での研究が可能になるなど、大変興味深いお話がありました。

 嶋田透先生(東京大学農学生命科学研究科)からは、「トランスクリプトーム解析が解き明かす昆虫の食性進化の機構」のお話がありました。イチジク属植物を餌としていた先祖から、クワだけを食べるカイコが進化したメカニズムを遺伝子レベルで解析した結果の紹介がありました。カイコの食性進化には嗅覚受容体等の神経系遺伝子が関与していることや、クワの乳毒素(カイコ以外の昆虫に対して毒性を示す)である糖類似アルカロイド耐性の獲得機構も遺伝子レベルで明らかになったことなどが紹介されました。

 浜本洋先生(東京大学薬学系研究科)からは、「治療効果を指向した新規抗生物質の開発に向けて」のお話がありました。カイコを用いた細菌感染モデルを確立して治療効果を指標とした探索系により、新規作用機序をもつ抗生物質カイコシンEを発見した研究の経緯が紹介されました。カイコシンEの抗菌活性は宿主成分により強められ、試験管内での抗菌活性よる優れた治療効果があることなど、興味深い性質の紹介がありました。また、感染動物臓器内での病原菌の遺伝子発現解析に成功した技術革新に関するお話もありました。

 成田一衛先生(新潟大学医歯学総合研究科)からは、「ゲノム研究と腎臓病」と題して、IgA腎症に関する研究のお話がありました。腎臓の構造と機能の基礎的な解説の後、IgAの腎臓への沈着が認められるIgA腎症には患者の約1割に家族内発症が認められること、家族性IgA腎症患者家系でのエキソーム解析で発症にかかわる遺伝的背景を明らかにする研究のお話がありました。IgA腎症の発症メカニズム解明による有効な治療法の確立へ結び付けていきたいとのお話がありました。

 最後に、「ゲノム支援」研究代表の小原雄治先生(国立遺伝学研究所)から閉会の挨拶があり、本年度の公開シンポジウムを終了しました。