[先進ゲノム支援成果公開]脳の幹細胞の老化メカニズム解明に成功 機能低下に関わる遺伝子を可逆的に制御する因子を特定
奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科 の松田泰斗准教授(元 九州大学大学院医学研究院 講師)、同大学院医学研究院の中島欽一教授らは、ヒトを含む哺乳類の脳内の海馬という記憶などを司る部位の神経幹細胞が加齢に伴い機能低下する現象は、遺伝子の働きを可逆的に調整するエピジェネティック修飾を制御する酵素「Setd8」の働きの低下によって引き起こされることを明らかにしました。
本研究では、まず、神経幹細胞の機能に関わる遺伝子DNAの発現と、その制御機構をマウスの実験で解析したところ、加齢による神経幹細胞の機能低下に伴って、遺伝子DNA分子の塩基配列自体は変えずに、DNAを取り巻くタンパク質の構造変化などで発現を可逆的に制御する「エピジェネティック制御」が働き、遺伝子発現が低下することを突き止めました。次いで、このデータを基に、加齢による変化に関与する主要な因子として Setd8 を特定しました。
さらに、海馬の神経幹細胞に対し、特異的に Setd8 の発現を抑制すると、神経幹細胞の枯渇が通常よりも早期に進行し、新生神経細胞の減少や記憶・学習機能の低下が引き起こされることを確認しました。
一方で、Setd8 の酵素活性を一時的に阻害すると神経幹細胞の機能は低下するものの、活性を回復させることで再び正常な機能を取り戻すことができることも明らかになりました。
この結果は、Setd8 の発現低下によるエピゲノムおよび遺伝子発現の変化が可逆的であり、Setd8の操作によって老化した神経幹細胞を「若返らせる」ことができる可能性を示唆しています。本研究の成果を基に、将来的には老化した細胞を再活性化する「若返りリプログラミング技術」の開発と加齢性疾患の克服が期待されます。
本研究成果は、国際学術誌「The EMBO Journal」に2025年6月3日(火)午後7時(日本時間)に公開されました。
プレスリリース:
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/1262/
https://www.naist.jp/news/files/250522.pdf