[先進ゲノム支援成果公開]巧みな生存戦略を持つ寄生蜂の全ゲノム配列解読に成功
筑波大学 生存ダイナミクス研究センター島田 裕子助教らの研究グループは、キイロショウジョウバエ Drosophila melanogasterを宿主とする寄生蜂ニホンアソバラコマユバチAsobara japonicaを用いて、寄生蜂の生存戦略を支えている分子生物学的基盤を明らかにすることを目指しており、今回、その全ゲノム配列の決定と全遺伝子予測、さらに、遺伝子ノックダウン法の開発に成功しました。
ニホンアソバラコマユバチは、キイロショウジョウバエのみならず、多くのショウジョウバエ属昆虫を宿主とすることが知られています。その中には、現在ヨーロッパを中心に果物の害虫として深刻な問題となっているオウトウショウジョウバエDrosophila suzukiiも含まれます。本研究成果は、ショウジョウバエの害虫種に対する農薬の開発シーズの創出にもつながると考えられます。本成果はDNA Research誌に2022年6月10日に掲載され、筑波大学よりプレスリリースされました。
プレスリリース: https://www.tsukuba.ac.jp/journal/pdf/p20220614140000.pdf
東京大学 大学院農学生命科学研究科 附属水産実験所カビール アハマド氏、家田 梨櫻氏、細谷 将助教らの研究グループは、トラフグをふくむ12種の近縁種を研究材料とし、遺伝的連鎖解析、遺伝的関連解析、全ゲノム配列構築、ゲノム多型解析といったさまざまな手法をつかって、性染色体の置き換わりについて調べました。その結果、3つの近縁種で染色体の置き換えが最近おきたこと、そして、その置き換えがゲノム中を動き回る性決定遺伝子によって引きおこされていたことが明らかとなりました。本研究成果は、2022年6月3日にProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America誌にオンライン掲載されました。
プレスリリース: https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20220603-1.html
横浜市立大学大学院医学研究科 分子生物学の鈴木秀文助教、阿部竜太共同研究員(研究当時:医学部学生)、髙橋秀尚教授の研究グループは、メディエーター複合体のサブユニット MED26 と Little elongation complex (LEC) が、2つの核内凝集体Histone locus body(HLB)と Cajal body を会合させることで、新規の RNA ポリメラーゼ II (Pol II)の一時停止を引き起こし、ヒストン遺伝子の発現を制御することを明らかにしました。本研究成果は、英科学誌 Nature Communications に掲載されました。(日本時間2022年5月25日18時)
プレスリリース:
https://www.yokohama-cu.ac.jp/amedrc/news/d0md7n000000fqov-att/YCUrelease_takahashi_202205.pdf
筑波大学生命環境系下田臨海実験センター谷口 俊介准教授らの研究グループは、ハリサンショウウニの全ゲノム情報を解読するとともに、公的に利用できる遺伝子のデータベース TrBase を作成し公開しました。これにより、ハリサンショウウニが、ゲノム情報の整備されたモデル生物として、より多くの研究者や教育者に利用可能となり、ウニの発生や成長を司る遺伝子機能の解析などの基礎研究のみならず、水産などの応用研究や教育分野での活用などに貢献することが期待されます。本研究成果は、2022 年 5 月 20 日にDevelopment Growth & Differentiation誌に掲載されました。
プレスリリース: https://www.nig.ac.jp/nig/images/research_highlights/PR20220520.pdf
東京大学大学院農学生命科学研究科の中里一星大学院生と有村慎一准教授らのグループは、モデル植物(注1)シロイヌナズナのミトコンドリアゲノム約36万7千塩基対のうち狙った1塩基対のみを、細胞当たり数十から百個ほどあるミトコンドリアゲノムコピーの全てで置換することに成功しました。以前、有村准教授らのグループが開発した植物ミトコンドリアゲノム安定改変法(DNA切断タンパク質を用いてミトコンドリアゲノムの狙った箇所を切る方法)では、狙った箇所を中心に数百から数千塩基対の長さの欠損が生じ、また遺伝子の並び順が変わるなど、ゲノム構造の変化を引き起こしてしまうことが問題になっていました。今回報告する標的一塩基置換法では、このようなゲノム構造の変化は生じず、従来法と比べて精緻なゲノム改変を達成することができました。本研究は、これまで不可能だったミトコンドリアゲノムの人為改変を利用した作物品種改良の基盤技術になることが期待されます。本成果は、2022年5月13日 に米国の国際学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」に掲載されました。
プレスリリース: https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20220516-1.html
京都大学大学院農学研究科 神川龍馬准教授、筑波大学計算科学計算センター 中山卓郎助教、国立科学博物館動物研究部 谷藤吾朗研究主幹、国立遺伝学研究所 中村保一教授らの共同研究グループは、地球全体の光合成の約20%に貢献すると言われる珪藻の中で、光合成を止めた種の全ゲノム解読に成功しました。この種は光合成をしない代わりに環境中に溶存する栄養分を吸収して生育していますが、その詳細なメカニズムはわかっていませんでした。本研究では全ゲノム解読に加え、機能している遺伝子を網羅的に検出するトランスクリプトーム解析や生化学実験などを用いた多角的な研究により、本種が光合成を止めた後も葉緑体での物質生産を維持しつつ、周りの養分を効率よく獲得するための能力を増大させていることが明らかとなりました。本成果は、2022年4月29日 に米国の国際学術誌「Science Advances」にオンライン掲載されました。
プレスリリース: https://www.nig.ac.jp/nig/images/research_highlights/PR20220430.pdf