[班員による成果公開]世界中のヒトの口腔内に分布する巨大な染色体外エレメント「Inocle」の発見 ――微生物がヒト体内の環境変化に適応するメカニズムを解明する一歩――
東京大学大学院新領域創成科学研究科の鈴木穣教授と、木口悠也特任助教(研究当時)、濱本渚大学院生、水谷壮利特任准教授(研究当時)、国立がん研究センター東病院の榎田智弘医員、サム・ラトゥランギ大学のJosef S. B. Tuda教授らによる研究グループは、世界中のヒトの口腔内に広く分布する細菌の新規染色体外エレメント「Inocle(イノクル)」を発見しその基本的な遺伝学的、生態学的特徴を明らかにしました。
本研究ではヒト唾液サンプルに最適化したロングリードシークエンスを用いたメタゲノム技術を開発することによって世界中のヒトの口腔内に広く分布するInocleと呼ばれる新規染色体外エレメントの同定に成功しました。詳細な遺伝子解析によってInocleが複数の環境ストレスに適応するための遺伝子群を保有していることが示されました。また、血中のシングルセル解析およびプロテオーム解析との統合解析によってInocleが免疫システムと相互作用している可能性を示しました。さらに、頭頸部がん患者と大腸がん患者の唾液ではInocleが明確に減少していることを明らかにしました。これらの結果はInocleがヒトの生理機能の変化に対する口腔内細菌の適応に関与していることを示唆しています。
Inocleの存在は本研究によって初めて同定されました。今後Inocleが持つ機能を詳細に明らかにすることによってヒト体内の環境ストレスに適応するために細菌がどのように染色体外エレメントを活用しているのか明らかになることが期待されます。
本研究成果は、2025年8月11日に、国際学術誌「Nature Communications」に掲載されました。
プレスリリース:https://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/press/11707.html