[班員による高度化論文公開]肺がんの悪性化に伴う分子的変遷の解明 ― 肺がんはどうやって悪性化していくのか? ―
東京大学大学院新領域創成科学研究科の鈴木絢子准教授、鈴木穣教授、国立がん研究センター研究所ゲノム生物学研究分野の河野隆志分野長、筑波大学医学医療系診断病理学の野口雅之教授(研究当時)らからなる研究チームは、発生早期の肺腫瘍についての詳細なゲノム解析を行いました。
長鎖DNAシークエンスや空間オミクス解析などの最新の解析技術を用いたゲノム解析を行い、ドライバーがん遺伝子変異と呼ばれる重要な遺伝子の変化が、最も初期の上皮内がんの段階において既に発生していることを見出しました。そして、ゲノムDNA全体のメチル化の低下やコピー数変化がそれに続いて積み重なることで、上皮内がんから悪性度を増した浸潤がんに進展していくというメカニズムが明らかになりました。また、やや進展した上皮内がんの段階で、腫瘍細胞は初めて免疫細胞からの本格的な攻撃にさらされることが分かり、腫瘍細胞はそれに対する防御メカニズムを発揮し、その結果として肺組織内には様々な形態の変化が生じると示唆されます。
このような詳細な早期肺がんの解析は世界で初めて行われたものです。発がん早期に生じる遺伝子、タンパク質、組織形態の変化を詳細に明らかにすることは、将来的ながんの早期発見や有効な治療、効果的な予防につながるものと期待されます。
本成果は、「Nature Communications」に2023年12月15日に掲載されました。
プレスリリース: https://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/press/10700.html
Yasuhiko Haga, Yoshitaka Sakamoto, Keiko Kajiya, Hitomi Kawai, Miho Oka, Noriko Motoi, Masayuki Shirasawa, Masaya Yotsukura, Shun-Ichi Watanabe, Miyuki Arai, Junko Zenkoh, Kouya Shiraishi, Masahide Seki, Akinori Kanai, Yuichi Shiraishi, Yasushi Yatabe, Daisuke Matsubara, Yutaka Suzuki*, Masayuki Noguchi, Takashi Kohno*, Ayako Suzuki*, Whole-genome sequencing reveals the molecular implications of the stepwise progression of lung adenocarcinoma, Nature Communications (2023) DOI:10.1038/s41467-023-43732-y